「事務職」という求人を見比べていて、「一般企業の事務と学校事務って、結局やることは同じなんじゃないの?」と感じたことはありませんか。パソコンで書類を作って、電話を受けて、データを入力して…と考えると、たしかに似ているように見えます。
私は学校事務職員として10年以上働いてきましたが、この仕事を一般企業の事務職と同じイメージで語られると、正直なところ「そこは結構違うんだけどな」と思う場面が少なくありません。雇用形態も、採用の通り方も、業務の広がり方も、実は根本の枠組みから違うからです。転職やキャリア選択の分かれ道で悩んでいる方には、そのあたりの違いを具体的に知ったうえで判断してほしいと思っています。
なお、あらかじめお断りしておきたいのですが、本記事で扱う「学校事務職員」は、都道府県や市町村が採用する公立小中学校の学校事務職員(地方公務員)に限定します。「学校事務」というキーワードで検索すると、私立学校が学校法人として独自に採用する事務職員(民間雇用)まで一緒くたに解説している記事が少なくありません。ですが公立と私立では、そもそも適用される法律も採用方法もまったく別物です。この記事では、その違いをあいまいにしたまま比較しても意味がないと考え、公立の学校事務職員に絞ってお話しします。
学校事務職員と一般企業の事務職の違い(早見表)
| 比較項目 | 学校事務職員(公立小中学校) | 一般企業の事務職 |
|---|---|---|
| 採用プロセス | 地方公務員採用試験(教養試験・専門試験・論文試験+面接) | 書類選考・適性検査・面接が中心 |
| 業務範囲 | 予算・経理・人事関連・施設管理等を少人数(1人配置も多い)で横断的に担当 | 経理・総務・人事等が部署ごとに分業されやすい |
| 異動 | 数年サイクルで学校間・自治体内の異動あり | 企業・雇用区分によって有無・頻度が大きく異なる |
| 給料の決まり方 | 給料表(級・号給)に基づく昇給、期末・勤勉手当 | 人事評価・業績に応じた昇給・賞与が中心 |
※あくまで一般的な傾向を整理した早見表です。自治体・企業による違いも大きいため、詳しくは本文の各見出しをご覧ください。
採用プロセスの違い — 「試験」を突破するか「選考」を通過するか
一般企業の事務職に応募したことがある方なら、書類選考、SPIなどの適性検査、面接数回、という選考フローに馴染みがあるはずです。筆記による教養試験や専門試験を課す企業は、少なくとも一般的ではありません。
一方、公立小中学校の学校事務職員は、地方公務員採用試験に合格する必要があります。多くの自治体で、教養試験(一般知能・一般知識)、専門試験、論文試験という筆記試験をまず突破しないと、面接にすら進めません。例えば東京都の例では、教養試験・論文試験・専門試験からなる一次試験を通過した人だけが、二次の個別面接に進む形になっています。埼玉県では教養試験のみの一次試験に加え、二次で論文と個別面接が2回課される、という形式です。倍率は東京都で例年5倍前後、埼玉県で5〜7倍程度とされていますが、あくまで例年の目安であり、年度や自治体によって変動する点はご承知おきください。
ここで意外と見落とされがちなのが、採用区分の立て方自体が自治体によって異なるという点です。東京都のように「一般事務職」として採用され、配属先の一つとして学校事務に配属されるケースもあれば、埼玉県のように「学校事務」という職種で独自に募集をかける自治体もあります。つまり「学校事務職員になりたい」と思っても、志望する自治体によって受験すべき試験区分そのものが変わってくるのです。この違いは、対策を始める前に必ず自治体の募集要項で確認しておくべきポイントです。
一般企業の選考が「経験・人物重視」だとすれば、学校事務職員の試験は「暗記・演習量がものを言う筆記試験を突破できるか」という、対策の性質そのものが異なる関門だと考えておいてください。筆記試験でどんな分野が出やすいか、対策をどう進めればいいか気になる方は、教養・専門試験の傾向と対策をまとめた記事もあわせてご覧ください。
仕事内容の違い①業務の幅と裁量 — 1人で何役もこなす学校事務
一般企業の事務職、特にある程度の規模の会社であれば、経理・総務・人事・庶務といった業務が部署ごとに分業されているのが一般的です。自分の担当範囲がはっきりしていて、マニュアルも整備されている、という職場も多いのではないでしょうか。
学校事務職員はこれとかなり事情が違います。義務標準法という法律上の算定式では、4学級以上の学校であれば「学校数×1」が事務職員定数の基本単位とされており、多くの学校で事務職員1人配置が制度上の基本形になっています。3学級以下の小規模校ではさらに配置基準が下がる仕組みです。つまり、あなたが配属される学校によっては、その学校の事務業務のほぼすべてを1人で背負うことになります。特定の分野を極めるスペシャリストというより、幅広い業務を掛け持ちするゼネラリスト、いわばマルチタスクをこなす力が求められる仕事だと言えるでしょう。
一般企業の事務職と学校事務職員は、業務の一部が重なっている点も見逃せません。ざっと整理すると、次のようになります。
一般企業の事務職と共通する業務(例)
- 書類作成・データ入力
- 来客対応・電話応対
- 備品の発注・管理
学校事務職員に特有の業務(例)
- 学籍の異動処理(転入・転出の手続き)
- 就学援助費・奨学金関連の受付や申請書類の取りまとめ
- 就学時健診や入学式など学校行事に伴う事務手続き
共通する業務だけを見れば「事務」という言葉のイメージどおりですが、学校特有の業務が加わることで、担う範囲は一気に広がります。
私自身、1人配置の学校に勤務していた時期がありましたが、予算編成、旅費・給与関連の事務、就学援助、備品や施設の管理、証明書発行まで、日によって担当分野がまったく違う仕事を切り替えながらこなしていました。実際に1日の中でどんなふうに業務を切り替えているのか、具体的なスケジュールは学校事務職員の仕事内容を1日のスケジュールで紹介した記事で紹介していますので、気になる方はあわせてご覧ください。一般企業であれば経理担当・総務担当と分かれているであろう業務を、同じ日の午前と午後で行き来する感覚です。
もちろん学校によっては複数名配置される大規模校や、複数の学校の事務を共同で処理する「共同学校事務室」という仕組みを導入している自治体もあり、必ずしもすべての学校が1人職場というわけではありません。それでも、小規模校が多い地域では1人配置が基本形になっている、という実情は知っておいて損はないはずです。
働くタイミングという面でも違いがあります。一般企業では決算期や四半期末に業務が集中する会社が多いと思いますが、学校事務職員は年度末・年度始め(3月〜4月)に予算執行の締めと新年度の予算編成、就学援助や転入・転出の手続きが一気に重なりやすく、この時期は残業が増えやすい傾向にあります。繁忙期の”タイミング”自体が一般企業とはずれている、というのも意外と気づかれにくいポイントです。
ちなみに2017年の学校教育法改正で、事務職員の職務規定は「事務に従事する」から「事務をつかさどる」という表現に変わりました。単なる補助的な作業係ではなく、自らの判断で学校運営に関わる存在として法制上も位置づけが変化している、という点も付け加えておきます。
仕事内容の違い②「顧客」の違いが働き方を変える
一般企業の事務職は、基本的に社内の上司・同僚とのやり取りが中心で、対外的な窓口になるとしても特定の取引先が相手になることが多いはずです。感情的なクレーム対応やデリケートな相談ごとを日常的に受ける機会は、部署によってはそれほど多くないでしょう。
学校事務職員の場合、窓口として相対する相手は教職員、保護者、児童生徒、教育委員会、地域住民と多岐にわたります。電話対応一つとっても、事務的な問い合わせから、保護者の感情的な要望まで幅があります。
電話対応の”量”についても、学校事務ならではの事情があります。求人サイトの中には「学校事務は外部からの電話対応そのものが少ない」と紹介しているものも見かけますが、これは学校の規模や配置人数によって実感が変わる部分だと思います。少なくとも1人配置校に勤務していた頃の私の場合は、職員室にかかってくる電話は基本的にすべて自分が取ることになるため、件数としてはむしろ多いと感じる場面のほうが多かったです。「対応する電話の質は独特でも件数自体は少ない」と一括りにするのは、少なくとも1人配置校の実情とは少しずれがあるように感じます。
私の場合、学校事務職員としてもっとも戸惑ったのは、相談できる同業者が職場に誰もいないという状況でした。一般企業であれば隣の席の先輩に「これどう処理すればいいですか」と聞ける場面でも、1人配置の学校ではその場に事務職員が自分しかいません。教員は教員としての専門性を持っていますが、事務処理の実務については必ずしも詳しいわけではなく、結局は自分で調べて判断するしかない、という場面が何度もありました。この「同業の相談相手がその場にいない」という孤独感は、一般企業の分業型事務ではあまり経験しない感覚ではないかと思います。もちろん教育委員会や近隣校の事務職員との横のつながりで相談できる仕組みもありますが、日々の判断はやはり自分一人で下す場面が多いというのが実感です。学校ならではの人間関係の築き方や、管理職・教員との関わり方についてもっと詳しく知りたい方は、職場の人間関係のコツをまとめた記事もあわせてご覧ください。
仕事内容の違い③異動の有無とキャリアの積み上がり方
一般企業の人事異動は、企業の規模・業種・雇用区分(総合職かエリア限定職か等)によって有無や頻度が大きく違い、そもそも異動がほとんどない職種も珍しくありません。
学校事務職員は公務員として、数年サイクルで異動があるのが一般的な運用です。都道府県が給与を負担する「県費負担教職員」の場合、任命権は都道府県教育委員会にあるため、同一県内であれば市町村をまたいだ異動が起こりうる、という運用が一般的とされています。一方で市町村が独自に採用する「市町村費事務職員」は、基本的にその市町村内での異動にとどまりやすい、という構造差があるようです。ただしこの県費・市費の異動範囲の違いについては、一次資料での明確な裏付けまでは確認できておらず、あくまで実務家の解説から整理した一般的な傾向として捉えていただければと思います。具体的に何年で異動になるかは自治体の人事方針・条例によって異なり、個人の希望だけでコントロールできるものではありません。
私立学校の事務職員との比較でいえば、私立は自己都合で転職しない限り同じ学校(法人)に勤め続けるのが基本とされ、公立の学校事務職員のように制度として定期異動が組み込まれているわけではありません(ただし複数校を運営する学校法人では法人内異動があるケースもあるため、私立に異動が一切ないと言い切るのも正確ではありません)。異動を前提としたキャリアを積みたいか、一つの職場に腰を据えたいかは、進路選択の分かれ目になるでしょう。
給料の違い — 決まり方・伸び方・安定性を比較する
給料の話をする前に、一つはっきりさせておきたいことがあります。「一般企業の事務職の平均年収はいくらか」という問いには、実は明確な一つの答えがありません。参照する調査によって、示される数字がかなり違うのです。例えば、次のような差があります。
| 調査 | 一般事務の年収目安 |
|---|---|
| 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をもとにした解説 | 500万円台という報告も |
| 転職サイトの独自調査(doda等) | 350万円前後という報告も |
これは調査対象の年齢構成や、集計する母集団(公的統計は事業所調査、転職サイトは登録会員という限られた層)がまったく異なるために起きる差です。同じ「一般事務」という言葉を使っていても、どの調査を参照するかで見える景色がまったく違う、ということは知っておいてください。ですから本記事でも、一般企業の事務職の年収を一つの数字で断定することは避けます。調査によって数字に幅があるため、あくまで目安として捉えていただければと思います。
これに対し学校事務職員の給料は、地方公務員としての「給料表」に基づいて決まります。「級」(職務・役職の段階)と「号給」(経験年数等に応じた積み上げ)という2つの軸の組み合わせで基本給が決まり、標準的な勤務成績であれば年1回、号給が上がっていく仕組みです。手取り額は共済組合の掛金や税金の引かれ方によっても変わるため一概には言えませんが、経験年数を重ねると基本給や手取りが実際にどう推移していくのか、具体的なカーブは経験年数別の年収推移を解説した記事で詳しく取り上げていますので、あわせてご覧ください。一般企業のように、毎年の昇給や賞与額が景気・業績によって大きく変動する、という性質とは根本的に仕組みが違います。
ボーナス(地方公務員の場合は期末手当・勤勉手当)についても、一つ誤解されやすい点があります。「公務員のボーナスは景気に関係なく絶対に下がらない」と思われがちですが、これは正確ではありません。期末・勤勉手当の支給月数は人事院勧告(国家公務員向け)に連動して見直されるもので、過去にはマイナス改定になった年度も実際にあります。近年は引き上げが続いており、地方公務員も国の基準に準じて年2回、4ヶ月台後半程度の支給月数とされる自治体が多いようですが、景気動向や自治体の条例次第で今後も変わりうる数字だと理解しておいてください。
給料の決まり方そのものが違う以上、「学校事務職員と一般企業の事務職、どちらが年収が高いか」を金額だけで単純に比べることはできません。むしろ、業績連動で変動しうる一般企業の給与体系と、年功的な積み上げと穏やかな調整が続く公務員の給料表、どちらの安定感を求めるかという価値観の話として捉える方が実態に近いと思います。
どちらが向いている?仕事のスタイルから考える適性のヒント
ここまでの違いを踏まえると、適性のヒントも見えてきます。
一つの分野を専門的に深めたい、担当業務がはっきり分かれている環境で効率的に成果を出したい、という方には、分業が進んだ一般企業の事務職の方が働きやすいかもしれません。反対に、予算も経理も総務も、自分の裁量で幅広く担ってみたい、教職員や保護者といった立場の異なる相手と直接向き合う仕事にやりがいを感じられる、という方には、学校事務職員の働き方が合っている可能性があります。言い換えれば、分業によって専門性を高めやすい一方で裁量の余地は限られやすいのが一般企業の事務職のメリット・デメリットであり、裁量の広さと引き換えに1人で背負う責任も大きくなるのが学校事務職員のメリット・デメリットだと整理できます。
また、筆記試験の対策にじっくり時間をかけられるか、数年おきの異動を前提としたキャリアを受け入れられるかどうかも、判断材料の一つになるはずです。逆に転職活動での実務経験・スキルを武器にしたい、異動のない環境で腰を据えて働きたいという方には、一般企業の事務職の方が選択肢として自然でしょう。
なお、学校事務職員が実務で使うパソコンスキルや会計システムについて具体的に知りたい方は、必要なパソコンスキルと会計システムの基礎知識をまとめた記事も参考にしてください。
まとめ:違いを理解した上で、次の一歩を踏み出そう
「事務」という言葉だけを見ると似て見える2つの仕事も、雇用形態、採用プロセス、業務の裁量範囲、異動の有無、給料の決まり方まで、掘り下げてみると別物と言っていいほど違いがあります。どちらが優れているかという話ではなく、あなた自身が働き方に何を求めるか、進路選択の軸をどこに置くかという話です。
学校事務職員の具体的な仕事内容や1日の流れをもっと詳しく知りたい方は、学校事務職員の仕事内容を1日のスケジュールで紹介した記事を参考にしてみてください。経験年数に応じた給料の推移をより具体的に知りたい方には、経験年数別の年収推移を解説した記事が役立つはずです。社会人・既卒からの転職・再チャレンジを考えている方には、社会人・既卒の再チャレンジ事情をまとめた記事が橋渡しになれば幸いです。

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