「学校事務職員は志望者が減っている」と聞いて、不安になった方へ
「学校事務職員って、なり手が減っているらしいよ」——そんな話を耳にして、不安になった方はいませんか。
受験を検討している方にとっては複雑な情報です。「倍率が下がっているなら狙い目かも」という期待と、「そもそも人気がない仕事では」という不安が、同時に頭をよぎるのではないでしょうか。一方、すでに働いている方には、また違う響き方をするはずです。「志望者が減る→補充されない→自分の仕事量が増える」という、より切実な心配につながっているかもしれません。
私は学校事務職員として10年以上働いてきましたが、「志望者減少」という言説を、きちんとデータで確認したことはこれまでありませんでした。今回改めて公的な統計を調べてみると、正直「思ったほどスッキリしたデータは出てこなかった」というのが実感です。まずはそこから、包み隠さずお伝えします。
そもそも「志望者が減っている」は本当か — まずデータで確認します
結論から言うと、学校事務職員そのものの採用倍率や受験者数の推移を示す全国統一の公的統計は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。
総務省が毎年公表している地方公務員の採用試験調査は、都道府県・政令市・市区町村の採用試験を集計していますが、「学校事務」「一般行政事務」といった職種別には分かれていません。文部科学省の教員採用選考試験調査も、対象は小学校・中学校・高等学校・特別支援学校・養護教諭・栄養教諭に限定されており、事務職員はそもそも調査対象に含まれていません。これは資料の注記から確認できる事実で、推測ではありません。
自治体によっては、山梨県の「公立小中学校等事務職員採用試験」や大阪市の「学校事務」採用区分のように、学校事務職員を独立した試験区分にしているところもあります。ただし、こうした自治体のページを個別に確認しても、その区分に限定した受験者数・倍率の推移を公表しているページは見当たりませんでした。「区分自体が存在しない」のではなく、「区分はあっても倍率の実績データを公表している自治体が見当たらない」というのが正確な言い方です。
例外があります — 愛知県は学校事務職員そのものの倍率を公表しています
ただし、調べを進めるうちに重要な例外が見つかりました。愛知県です。愛知県は「市町村立小中学校職員採用試験」という名称で、小中学校の事務職員を県職員採用試験とは別立ての独立区分(試験の種類「小中職員」、試験区分「事務」)として実施しており、受験者数・合格者数・倍率を年度ごとに公式サイトで公表しています。私の知る限り、学校事務職員に特化した倍率の推移をここまで具体的に公表している自治体は多くありません。
愛知県人事委員会事務局職員課が公表している資料によると、令和7年度(2025年度)は申込者260人に対し、実際に第1次試験を受けたのは189人、最終合格者は42人で、競争倍率は4.5倍でした。前年の令和6年度は申込者278人・受験者197人・倍率5.5倍です。申込者と実際に試験を受けた人数の間には毎年一定の差があり、令和7年度で言えば申込みだけして受験しなかった人が71人いた計算になります。倍率を語るとき「申込者数」を使うか「受験者数」を使うかで数字の見え方が変わってしまう、というのは意外と見落とされがちな点なので触れておきます。
では、もっと過去に遡るとどうだったのでしょうか。愛知県の公式サイトには直近3年度分の数値しか掲載がなく、一次資料での確認はここまでが限界でした。ただし、複数の公務員試験対策ブログ・noteが独立にほぼ同じ数字を掲載しており、確認できた最古のデータは平成25年度(2013年度)で、受験者772人・最終合格者76人・倍率10.2倍です。愛知県の公式資料そのものではないため参考値としての紹介にとどめますが、複数の情報源で一致している数字であり、大きく外れてはいないだろうと判断しています。
平成25年度の10.2倍から令和7年度の4.5倍へ。受験者数で見ても772人から189人へと、十数年でおよそ4分の1にまで減っています。これは、学校事務職員という職種そのものに特化した数字で確認できる、志望者減少の具体的な実例だと考えています。もちろん愛知県は数ある自治体の一つに過ぎず、他の自治体でも同じペースで倍率が下がっているとは限りません。それでも「学校事務職員固有のデータは存在しない」で終わらせず、確認できる範囲では確かに数字が動いている、ということはお伝えしておきたいところです。
とはいえ、愛知県のように具体的な数字を追える自治体は限られており、全国を見渡せる統一データが存在しないという結論そのものは変わりません。次章では、学校事務職員そのもののデータではないと前置きしたうえで、地方公務員全体・教員採用試験という、より広い隣接領域から何が読み取れるかを見ていきます。
隣接領域で起きていること — 地方公務員全体・教員採用試験の倍率低下
先ほどの愛知県の例は、学校事務職員そのものの数字として貴重な材料でした。ただしここまで細かい数字を公表している自治体はまれで、多くの自治体では同じようには確認できません。ここからは視点を広げ、「地方公務員全体」と「公立学校教員」という隣接領域の数字を見ていきます。いずれも学校事務職員そのものの数字ではない点は、重ねて押さえておいてください。
総務省の令和5年度調査によると、地方公務員採用試験全体の競争率は4.6倍で、前年度から0.6ポイント低下しました。過去10年では平成26年度の7.0倍から令和5年度の4.6倍まで、令和2〜3年度の一時的な上昇を挟みつつ、おおむね右肩下がりです。2024年1月には、前年(令和4年度・5.2倍)の数値をもとに「過去30年間で最低」(1999年度の14.9倍との比較)という報道もありましたが、この数値を総務省の一次資料まで遡って直接確認することはできなかったため、ここでは「〜と報じられています」という紹介にとどめます。なお、その後公表された令和5年度の4.6倍は、この「過去30年で最低」とされた5.2倍をさらに下回っています。
もう一つが公立学校教員採用試験です。文部科学省の最新公表(令和7年度・令和6年度実施分)では、全体の競争率は2.9倍で過去最低、前年度の3.2倍から低下しました。ただしこれは小学校・中学校・高等学校・特別支援学校・養護教諭・栄養教諭を対象とした数字で、学校事務職員は含まれていません。教員の話と事務職員の話を混同しないよう、重ねて強調しておきます。
意外と知られていないのですが、この倍率低下について文部科学省自身が「大量退職等に伴う採用者数の増加が主な要因」という趣旨の分析をしています。小学校の採用者数は、倍率が過去最高だった平成12年度の3,683人から令和7年度は17,078人へと4倍以上に増えました。受験者数が急減したというより、採用枠そのものが広がったことで倍率が下がった側面が大きいのです。「倍率が下がった=人気がなくなった」と単純に結びつけるのは、実は正確ではありません。
倍率低下は採用者数の増加だけが理由ではない、と指摘する報道・記事も見られます。18歳人口の減少という構造的な要因に加え、民間企業の初任給引き上げなど人材獲得競争の激化、教員の労働環境に関する報道による志望回避が、受験者側の要因として挙げられることがあります。採用者数が増えたという供給側の事情だけでなく、こうした需要側の背景も一因として指摘されている、という点は押さえておきたいところです。
なお総務省の「競争率」は受験者数÷合格者数、文科省の「採用倍率」は受験者数÷採用者数と、算出方法が異なります。どちらも「倍率」と呼ばれますが、厳密には別の指標であることにも触れておきます。ちなみに愛知県が公表している競争倍率も「受験者数÷最終合格者数」で算出されており、総務省方式に近い数え方です。
学校事務職員ならではの要因を、現場目線で考える
ここからは公表データではなく、私が現場で見聞きしてきた実感に基づく考察です。
採用試験に関わる中で感じるのは、「学校事務職員」という仕事の中身が受験生にほとんど知られていないという問題です。先生であれば自分が児童・生徒として通ってきた経験からイメージがつきますが、学校事務職員は存在自体に気づかれないことが珍しくありません。私自身、面接の場で「こんな仕事があると知らなかった」と話す受験者に何度も出会ってきました。
「学校事務」という名称も、イメージのしにくさに拍車をかけていると感じます。「事務」という言葉から書類仕事だけと誤解されがちですが、実際には学校予算の管理、就学援助や奨学金といった保護者対応、施設管理、教員の給与・旅費の処理まで、学校運営の裏側を一人で幅広く担う専門職です。「事務だから楽そう」という先入観のまま入ると、実際の業務量とのミスマッチに戸惑って早期離職につながるケースもあり、それが「学校事務は大変らしい」という評判を広げ、さらに志望者が増えにくくなるという負のループも、現場では起きているように感じます。
加えて、(自治体や学校規模によって差はありますが)私の知る範囲では、学校事務職員は1校あたり1〜2名程度の配置にとどまることが多く、教員に比べて自治体ごとの採用予定人数そのものが少ないという構造的な事情もあります。配置人数が少なければ欠員も出にくく、受験者数の母数自体が増えにくいのです。実際、愛知県の募集人数を見ても、令和6年度は約30人、令和7年度は約35人と、教員採用に比べればかなり小さな規模で推移しています。
志望者減少が学校現場・事務職員にもたらす影響
現職の方が気になるのは、志望者が減った(かもしれない)ことが自分の働き方にどう跳ね返ってくるかだと思います。断定は避けつつ、制度の仕組みから見える可能性を整理します。
一つは共同学校事務室・事務の共同実施の広がりです。2017年の法改正で、教育委員会は複数の学校を指定して共同学校事務室を置くことができるようになりました。「置くことができる」という条文の通り、これは全国一律の義務ではなく任意設置の制度です。静岡県のように県内全市町で設置を完了させた自治体がある一方、全国的な導入率を示す統計は見当たりませんでした。あなたの自治体では、共同実施は進んでいるでしょうか。地域差はかなり大きいはずです。
もう一つは定年引き上げです。地方公務員の定年は2年に1歳ずつ段階的に引き上げられており、この移行期間中は定年退職者が出ない年度が生じるため、新規採用者数が年度によって変動しうる構造になっています。総務省もこの点を踏まえ、複数年単位での採用の平準化が重要という考え方を示しています。学校事務職員にも同様の構造が働く可能性は考えられますが、これを直接示すデータがあるわけではありません。
少子化による学校統廃合が事務職員の必要人数にどう影響するかについても、直接の推計データは見当たりませんでした。事務職員の配置数は義務標準法により学級数に応じて算定されますが、小規模校にも最低限の配置基準があるため、「学校が減った分だけ単純に事務職員が減る」と言い切れるものではありません。この点は今後の検討課題として、正直にお伝えしておきます。
人員配置だけでなく、業務内容そのものの変化にも触れておきます。校務支援システムの整備や会計処理のデジタル化などICT化が進めば、定型的な事務作業の負担は軽減される一方、システム管理やデータ活用といった新しいスキルが求められる可能性があります。志望者数だけでなく、求められる人材像そのものが変わっていく側面も見ておく必要があるでしょう。
志望者を増やすために何ができるか — ここからは私個人の考えです
ここまではデータと制度の話でしたが、ここから先は10年以上この仕事を続けてきた私個人の意見・提案として読んでください。事実として断定するものではなく、現場から見た一つの見方です。
一番強く感じているのは、仕事内容そのものの発信を増やすべきだということです。教員採用試験には説明会やSNSでの発信、大学の教職課程を通じた接点がありますが、学校事務職員はこうした機会がはるかに少ないのが実情です。自治体の採用ページを見ても、業務内容が「学校の事務全般」という数行の説明で終わっているケースが少なくありません。実際にどんな仕事をしているのか、どんな人が向いているのかを具体的に言語化して発信していく必要があると考えています。このブログを書いている理由も、まさにここにあります。
もう一つ提案したいのは、社会人経験者への訴求の工夫です。地方公務員全体では社会人経験者を対象とした採用試験を実施する自治体が広がっていると言われていますが、学校事務職員に特化した経験者採用の実施状況を示すデータは見当たりませんでした。それでも、民間企業で経理や総務、窓口対応を経験してきた方のスキルは学校事務との親和性が高いと感じます。こうした層に「学校事務職員」という選択肢そのものが届いていないのではないか、というのが私の実感です。
それでも学校事務職員という仕事に魅力を感じる理由
データや課題の話ばかりでは、現職の方を不安にさせるだけの記事になってしまいます。最後に、私がこの仕事を10年以上続けてきて感じている魅力を率直に書いておきます。
学校事務職員は、一つの学校の運営を予算・施設・人事関係の事務まで含めて横断的に見渡せる立場にいます。担任の先生が一つのクラスを見るのに対し、事務職員は学校全体を経営的な視点で支える役割を担っています。私自身、就学援助の手続きで困っている保護者の相談に乗ったり、限られた予算の中で学校の備品を工夫してやりくりしたりする中で、「この学校が回っているのは自分の仕事のおかげでもある」と実感できる瞬間が何度もありました。目立つ仕事ではありませんが、確かな手応えのある仕事だと思っています。業務の全体像をもっと知りたい方は、学校事務職員の仕事内容もあわせてご覧ください。
まとめ:不安の実態を知ったうえで、次の一歩を考えてみませんか
「学校事務職員の志望者が減っている」ことを裏付ける全国統一の公的データは、今のところ見当たりません。ただし愛知県では、学校事務職員を独立区分として直近の受験者数・倍率を公表しており、令和6・7年度の一次資料に、参考値である平成25年度の数字を重ねると、10.2倍から4.5倍まで確かに低下してきたことが見えてきます。地方公務員全体・教員採用試験という隣接領域でも、同様の低下傾向が見られます。これらの事実と、学校事務職員固有の課題や魅力とを、混同せずに受け止めていただければと思います。
受験を検討している方は、まず倍率という数字の読み方を知っておくと、不安や期待に振り回されにくくなります。年齢制限や社会人経験者枠についても条件は自治体ごとに異なるため、個別に確認しておくことをおすすめします。すでに働いている方は、自分の自治体で共同学校事務室の導入がどう進んでいるか、一度調べてみるのも良いきっかけになると思います。

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