「同じ地方公務員だから、県庁の職員も学校事務職員も、そんなに変わらないんじゃないか」——公務員試験を検討し始めたころ、そう感じたことはありませんか。私自身、学校事務職員として10年以上働いてきましたが、採用試験の説明会などで「県庁と学校、どっちを受けようか迷っている」という声を何度も聞いてきました。
結論から言うと、県庁行政職と学校事務職員は、同じ「地方公務員」というくくりの中でも、採用の入口から配属先、異動の仕組み、給料表の建てつけまでかなり違います。しかもその違いは、受験案内をよく読まないと気づきにくい形で制度に埋め込まれています。
なお、本記事で「学校事務職員」と呼んでいるのは、公立小中学校(市町村立の小・中学校)に配属される事務職員のことです。県立高校の事務職員は、多くの自治体で採用区分や人事異動の枠組みが異なり、都道府県庁の一般行政職に近い扱いを受けているケースもあります。「学校事務職員」とひとくくりに語られがちですが、この違いは進路選択に直結するので、まずこの前提を押さえておいてください。
県庁行政職と学校事務職員の違い(早見表)
| 比較項目 | 県庁行政職 | 学校事務職員(公立小中学校) |
|---|---|---|
| 採用区分 | 知事部局による一般行政職試験(知事部局採用) | 都道府県教育委員会などによる独立区分の試験・選考であることが多い(教育委員会採用、自治体差あり) |
| 配属先 | 本庁の各部局・出先機関(税事務所・土木事務所等) | 市町村立小中学校(1人配置の学校も多い) |
| 異動範囲 | 本庁・出先機関を横断して異動 | 学校間の異動が中心。政令指定都市を除き県内全域が対象になりうるが、一般行政職との系統をまたぐ異動は基本的にない |
| 給料表 | 行政職給料表(一)が適用されることが多い | 学校職員向けの条例は別立てだが、俸給表自体は行政職給料表(一)を準用するケースが多い |
| 組織体制 | 上司・同僚がそろう組織的な職場 | 少人数〜1人配置が多く、裁量が大きい一方で孤独感を伴いやすい |
※あくまで一般的な傾向を整理した早見表です。自治体によって制度は異なるため、詳しくは本文の各見出しをご覧ください。
採用試験の違い — 採用区分は一本化されているか、別枠か
併願を考えるうえで、最初に確認してほしいのがここです。「県庁の一般行政職として採用されて、配属先の一つとして学校事務に回されることもある」というイメージを持っている人が少なくありませんが、調べた範囲では、むしろ採用試験そのものが最初から分かれている自治体が目立ちます。学校事務職員の採用主体は都道府県教育委員会による教育委員会採用であるのに対し、県庁行政職の採用主体は知事部局による知事部局採用であるケースが多く、そもそも採用の入口からして別ルートになっていることが少なくないのです。
代表的な自治体の募集要項・受験案内を整理すると、次のようになります。
| 自治体名 | 採用区分の扱い | 身分・任命権者 |
|---|---|---|
| 埼玉県(令和7年度受験案内) | 「埼玉県市町村立小・中学校事務職員採用試験」として、一般行政・警察事務とは別枠 | 身分は勤務先の市町村職員。任命権者は埼玉県教育委員会 |
| 大阪府(執筆時点で確認) | 「大阪府公立義務教育諸学校事務職員採用選考」を大阪府教育委員会が実施。大阪府庁一般行政職試験(大阪府人事委員会事務局実施)とは別立て | 募集要項では「府費負担職員」という用語が使われている |
| 北海道(執筆時点で確認) | 道教育委員会が「教育行政職員」(道立学校配置)と「公立小中学校事務職員」(市町村立学校配置)の2区分で募集。道庁一般行政職の採用区分とは別 | 市町村立学校配置分は身分が市町村職員、給与は道が負担 |
| 東京都(執筆時点で確認) | 小中学校事務職員の採用は、都庁一般行政職(知事部局採用)の試験区分とは別立て | 身分は区市町村職員、給与負担は東京都、任命権者は東京都教育委員会という三層構造 |
中でも埼玉県の受験案内には、次のように明記されています。
「一般行政(一般事務)、小・中学校事務、警察事務相互間の異動は行われません。」
つまり、試験に合格した時点で、その後のキャリアの土俵がほぼ決まってしまうということです。これは受験案内を丁寧に読まないと見落としやすいポイントで、私も現場でこの事実を知らずに受験してしまった人の話を聞いたことがあります。
ここまで確認できた埼玉・大阪・北海道・東京の例を見る限り、「学校事務は別枠採用」という傾向が目立ちますが、47都道府県すべてを網羅的に調べたわけではありません。自治体によっては一般行政職の配属先の一つとして学校事務に回す仕組みを持っているところもあるかもしれませんので、断定はできません。だからこそ、志望する自治体の募集要項・受験案内で、試験区分と身分の記載を必ず自分の目で確認することをお勧めします。
仕事内容の違い① 配属先が「県庁舎」か「学校」かで変わる毎日の景色
県庁行政職は、本庁の各部局(知事部局・各種行政委員会など)や出先機関(税事務所・土木事務所など)に配属され、部署ごとに業務内容が大きく変わります。例えば大阪府公式サイトの「行政職の仕事」ページでは、政策の企画立案、府庁内外の調整、条例制定、財産管理、府税徴収など幅広い業務を担うと紹介されています。神奈川県の職員採用案内でも、「行政」職種と「公立小中学校事務」職種を同じ採用サイト内で並べて紹介しており、県庁行政職が民間企業でいう「総合職」に近いゼネラリスト的なポジションであることが伝わってきます。
一方の学校事務職員は、毎日同じ「学校」という現場に立ちます。私の場合、朝は職員室で施設の不具合がないか確認するところから始まり、就学援助や学校徴収金の経理処理、備品の発注、校長・教頭への予算執行の説明、教職員からの給与や旅費に関する相談対応まで、1日のうちに全く性質の異なる業務が次々と舞い込みます。窓口の向こうにいるのは県民ではなく、保護者や児童生徒、教職員です。県庁行政職のように「今日は許認可の窓口対応」「来月から税務課で徴収業務」というように業務の幅が部署異動で広がっていくのではなく、一つの学校の中で庶務・経理・人事関連の実務をひとりで横断的に回していく、というのが学校事務職員の働き方の特徴だと感じています。特定の分野を極めるスペシャリストというより、幅広い業務を掛け持ちするマルチタスクの力が求められる仕事だと言えるでしょう。
もう少し詳しい1日の流れを知りたい方は、学校事務職員は何する仕事?1日のスケジュールで具体的に解説もあわせてご覧ください。
仕事内容の違い② 異動の範囲とキャリアパスの伸びしろ
「学校事務職員として採用されても、いずれ県庁本庁に異動することはあるのか」——これは受験検討者からよく聞かれる質問です。
先ほど紹介した埼玉県の受験案内が示すとおり、少なくとも埼玉県では、通常の人事異動の枠組みの中で一般行政・学校事務・警察事務の間を異動することはありません。この背景には、任命権者の違いという制度上の壁があります。市町村立小中学校の教職員(学校事務職員を含む)の給与は都道府県が負担しますが、身分は市町村職員のままで、任命権者は都道府県教育委員会です(県費負担教職員制度と呼ばれる仕組みで、地方教育行政の組織及び運営に関する法律が根拠になっています)。人事異動は市町村教育委員会の「内申」(市町村教育委員会からの人事に関する意見具申)に基づいて都道府県教育委員会が行うとされています。これに対し、県庁行政職(知事部局)の任命権者は知事であり、系統がそもそも異なります。つまり、教育委員会系統と知事部局系統は、制度上、定期人事異動の枠組みが基本的に分かれているのです。これが「なぜ学校事務職員は県庁本庁に異動しにくいのか」の制度的な理由だと考えられます。
反対に、県庁行政職から教育委員会事務局や県立学校へ異動する流れは一般的にあるとされています。異動の矢印は「県庁→学校」方向は存在しても、「市町村立小中学校の学校事務職員→県庁本庁」という逆方向の矢印は、通常の人事異動ルートとしては想定されていない自治体が多いとみられます。
ここで注意したいのは、「系統をまたぐ異動がない」ことと「異動範囲そのものが狭い」ことは別の話だという点です。学校事務職員も、政令指定都市を除けば県内全域が異動の対象になりうるとされており、任命権者である都道府県教育委員会のもとで、隣接する市町村を越えて異動するケースも珍しくありません。県庁行政職の異動範囲(本庁・出先機関=これも基本的に県内)と、地理的な広さそのものはそれほど変わらない場合もあるのです。「学校事務は狭い範囲でしか異動しない」と早合点せず、系統(職種)をまたぐかどうかと、地理的にどこまで異動するかは別の軸として捉えてください。
なお、一部のブログや転職コラムでは「学校事務として長年勤務したのち、教育委員会事務局に異動して幹部候補として活躍した」という逸話も見かけましたが、出典の信頼性や自治体名が特定できず、一般化できる根拠としては弱いと感じています。特別な選考(経験者選考や管理職登用選考など)を経て事務局入りする例が絶対にないとは言い切れませんが、通常の定期異動として制度化されているとは言い切れないというのが実情です。「絶対に異動できない」と断定せず、「通常のルートでは想定されていない自治体が多いようだ」くらいの理解で、志望自治体に確認してみてください。
仕事内容の違い③ 「組織の一員」として働くか、学校でほぼ一人で背負うか
県庁行政職は、部署に上司・先輩・同僚がそろっている組織的な職場です。困ったときにすぐ隣の席に相談できる人がいる、というのは大きな安心材料でしょう。
学校事務職員は、これとは対照的な環境で働くことが多くなります。小中学校では事務職員が1人配置という学校も珍しくなく、私自身、赴任した学校で事務処理に迷っても、その場に同じ職種の同僚がいないという状況を何度も経験しました。もちろん市町村教育委員会や近隣校の事務職員に電話で相談することはできますが、「今すぐ隣の席で聞く」という環境ではありません。この孤独感は、実際に働き始めてから初めて実感する人が多いように思います。一方で、判断や工夫の裁量が自分に委ねられる場面が多いのも事実で、これをやりがいと捉えるか負担と捉えるかは、人によって分かれるところです。
待遇・給料の違い — 適用される給料表は同じ?昇任スピードに差はあるか
「給料表は同じですか、違いますか」と聞かれたら、実は「両方正しい」というのが実態に近い答えになります。
東京都の例を一次資料で確認したところ、都庁職員向けの「職員の給与に関する条例」とは別に「学校職員の給与に関する条例」という独立した条例が存在していました。ところがその条例の中を見ると、事務職員の給料表は「行政職給料表(一)を準用する」と規定されています。つまり、
- 条例(ルールの器)としては、都庁行政職と学校事務職員は別立て
- 俸給表(金額そのものの表)の中身は、都庁行政職と共通の行政職給料表(一)を使用
- へき地手当や産業教育手当など、学校特有の手当は別途規定
という、少しねじれた構造になっているのです。和歌山県・秋田県でも同様に、学校職員向けの独立した給与条例の中で行政職給料表を適用する構成が確認できました。この3例だけで「全国的に共通の構造」と断定はできませんが、条例上は別立てでも実質的な俸給表は行政職給料表を流用している自治体が多いのではないかと考えられます。なお、地域手当や期末手当・勤勉手当といった基本的な手当の考え方自体は、学校事務職員も県庁行政職も共通の枠組みに基づいて支給されるとされています。志望自治体の給与条例が公開されていれば、確認してみると理解が深まるはずです。
学校事務職員の給料が経験年数に応じて具体的にどう伸びていくかを知りたい方は、学校事務職員は安定した収入を得られる?経験年数別の年収推移を解説で詳しく取り上げています。
昇任(係長・課長補佐・管理職などへのポストが上がるタイミング)のペースについては、具体的な年齢を示すブログ記事もいくつか見かけましたが、いずれも出典が個人による独自集計で、算出方法や対象自治体が不明瞭でした。ここで断定的な数字を示すのは誠実さに欠けると考えるので、あえて年齢の数字は挙げません。それよりも意識してほしいのは、ポストの母数という構造的な違いです。県庁行政職は本庁・出先機関を横断する多様な部署があり、管理職ポストの数も相対的に多くなります。一方、学校事務職員は学校数×おおむね1〜数名という配置構造のため、昇任先のポスト自体の絶対数が限られやすい傾向があります。給料の伸び方そのものよりも、この「ポストの多さ」の違いを頭に入れておくほうが、実態に近いイメージが持てると思います。
どちらが向いている? 働き方・キャリア志向から考える適性のヒント
数年ごとに全く違う分野の部署を経験しながら、組織の中で多様な業務に携わりたい人には、県庁行政職の幅広さが向いているでしょう。政策立案から窓口対応まで、経験する業務の振れ幅が大きいぶん、ゼネラリストとしてのキャリアを積みやすいはずです。
反対に、一つの現場に腰を据えて、児童生徒や教職員、保護者という「顔の見える相手」と向き合いながら、経理・庶務・人事関連の実務を自分の裁量で幅広く担いたいという人には、学校事務職員の働き方が合っていると思います。私自身、毎年顔ぶれの変わる教職員や子どもたちと関わりながら、学校運営を裏方として支える仕事にやりがいを感じてきました。孤独感と裏表の「裁量の大きさ」をどう捉えるかが、この仕事を続けられるかどうかの分かれ目になる気がしています。
なお、そもそも公務員ではなく民間企業の事務職も選択肢に入れて比較したい方は、学校事務職員は一般企業の事務職と何が違う?仕事内容・給料を比較も判断材料になるはずです。
併願する場合は、「どちらに合格しても、その後のキャリアの土俵はほぼ固定される」という前提を踏まえたうえで、両方受けるのか、どちらかに絞るのかを判断してみてください。ここで整理した違いは、面接で「なぜ学校事務を選んだのか」を説明する材料にもなります。志望動機を言葉にするときにも、ぜひ役立ててください。
まとめ:試験区分をまず確認して、次の一歩を踏み出そう
ここまで見てきたように、県庁行政職と学校事務職員は、同じ「地方公務員」という言葉でくくられていても、採用試験の入口から異動の仕組み、給料表の建てつけまで、制度としてはかなり異なる道です。そして多くの自治体で、その分かれ道は受験する試験区分を選んだ瞬間から始まっています。
次にやるべきことはシンプルです。志望している自治体の採用ページ・受験案内をもう一度開いて、「一般行政職」と「学校事務職員(または教育事務職など)」の試験区分が分かれているか、身分や任命権者はどこか、異動の範囲についての記載があるかを、自分の目で確認してみてください。埼玉県のように「相互間の異動は行われません」と明記している自治体もあれば、記載が薄い自治体もあります。この一手間が、入職後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐ一番の近道です。
学校事務職員の仕事内容や給料の伸び方、一般企業との比較については、本文中でご紹介した記事もあわせてご覧ください。

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